カメラで写真が撮れる仕組み
2019/5/21
カメラで写真を撮る仕組みは、大まかには目でものを見る仕組みをまねる形になっています。今回は、人間がものを見る仕組みになぞらえる形で、カメラで写真がどのように画像化されるかを説明していきます。
カメラの仕組みは人間がものを見る仕組みと似ているんです
目でものを見る時には、太陽や室内の照明からの光をいろいろな物体が反射して、その光を目の中の網膜が感じて映像化しています。
物体からの光を網膜上に像を結ばせるための水晶体があって、明るすぎる時には光の量を制限するための虹彩があります。また、物体との距離が変化しても網膜上にきちんと結像できるように、水晶体の厚さを変化させることでピントの調整を行ないます。網膜の上に結ばれた像の光を感じ取ってその信号を視神経を通じて脳の視覚野に送り、そこで画像処理が行なわれてはじめていろいろな物体の映像が認識されます。
分解して考えていくと、カメラでも人間が画像を認識するまでの仕組みと同じ働きをするパーツがあることが、この説明を見ただけでも想像できるかもしれませんね。
目の水晶体はカメラのレンズ、虹彩はレンズの中の絞り、網膜はフィルムカメラではフィルム、デジタルカメラではイメージセンサーがこれに当たります。視神経はイメージセンサーから信号を読み出す配線に相当し、脳が視覚野で行なっている仕事(の一部)はまさに映像エンジンが行なっている処理に相当します。
人間の脳は目から入った情報から、空間や物体の識別など、より高度な認識・認知を行なっていますが、デジタルカメラでもそのごく初歩的な部分は機能が実現されつつあります。顔認識機能などはその第一歩と言えると思います。
以下、それぞれの要素についてもう少し詳しく見ていきます。
レンズ
イメージセンサーに被写体の像を正しく映し出すためのパーツがレンズです。被写体から反射した光がきちんとイメージセンサーの面の上に焦点を結ぶよう設計されています。
レンズの設計・製造上の欠点は、「収差」という言葉があてられています。被写体の形が歪んで映ってしまう「歪曲収差」、色ズレが起こってしまう「色収差」など、光学設計上には複数の欠点の要素が存在することが知られています。
これらの収差をできるだけゼロに近づけることが出来れば、そのレンズは結像性能の点では優秀なレンズと言うことになります。
写真のようにフィルムやイメージセンサー上のある程度の広さにわたって、しっかりとピントを結ばせるための設計をするのは実際には非常に難しく、さらにピントがずれた部分のボケ具合の善し悪しも性能の一環と見なされるようになる写真用レンズでは、非常に高度な設計が求められています。
レンズには水晶体と同じように、被写体までの距離が変化してもきちんとフィルム/イメージセンサー上に焦点が来るよう調節を行なう機構が組み込まれます。被写体が近くになると、結果的にレンズの光を曲げるパワーが上がるように調節を行なうことで、ピントを合わせる形になります。
絞り
絞りはフィルム/イメージセンサーに届く光の量を調節するためのパーツです。
人間の目と同様に、光の量が多すぎると情報が飽和してしまって、元の被写体の画像を再現できなくなります。写真では、画面が真っ白、あるいはかなり白っぽく低コントラストで被写体が写る形になります。
シャッター
カメラでは人間の目の虹彩に相当する絞りの仕組みに加えて、光を蓄積する時間で明るさをコントロールするためのシャッターも備わっています。
シャッターは撮影時にフィルムやイメージセンサーに、設定した時間だけ光が当たるようにする仕組みです。撮影時には、一瞬だけ開いて光を通し、すぐあとには閉じて光が通らなくなります。その、光を通している時間をきわめて正確にコントロールできるようになっています。
一般的なコンパクトデジカメやミラーレス一眼では、ファインダーや液晶モニターで被写体の様子を見る時にはイメージセンサーで捕らえた像を使います。このため、撮影時以外は基本的にはシャッターはいつも開いている状態になります。
イメージセンサー
デジタルカメラでは人間の網膜に相当するのがイメージセンサーです。
イメージセンサーは仕組みを単純化すると、大量のとても小さな太陽電池が規則的に並んだものです。被写体からの光がイメージセンサーに当たって、それぞれの粒の太陽電池が当たった光の強さに応じた電力を生み出します。その発生した電気の強さを明るさの違いとしてデジタルデータ化し、再構築することで映像を作り出します。
原理的にはイメージセンサーの画素1粒1粒が感じられるのは光の強弱だけで色を感じることが出来ません。色の情報を作り出すために一般的なイメージセンサーでは、光の三原色である、赤、緑、青のカラーフィルターをイメージセンサーの画素それぞれに規則的に配置することで、赤い光を感じる画素、緑の光を感じる画素、青の光を感じる画素を作り出しています。
最もよく使われるカラーフィルターの配置は「ベイヤー配列」というかなり単純で規則性の高い並び方です。結果的に赤、緑、青の画素の数の比率は1:2:1になります。
この方式のイメージセンサーでは、ある1つの画素には、赤、緑、青のいずれかの情報しかないことになります。このため厳密な見方をすれば、赤と青の色に注目した解像度は、イメージセンサーの有効画素数の1/4に相当する解像度しかありません。数の多い緑でも解像度は1/2になります。
このような色情報の作り出し方の観点では歯の抜けたような形の情報から、有効画素数と同程度の画素数の写真の画像データを生成するために、ある画素の処理では映像エンジンの中で周りの画素から不足している色情報を推測して補完する処理が動いています。
この補完処理のために非常に細かな絵柄などでは実際に存在しない色が描画されてしまう「偽色」が生じたり、規則性のある細かな絵柄が連続する場所に「モアレ」が発生してしまったりします。これら2つは、イメージセンサーの各画素すべてにRGBの色情報が揃っていないために起こる、映像エンジンの処理上のエラーとも言えます。
このような一般的なイメージセンサーでは偽色やモアレの発生を抑えるために、あえてイメージセンサー上に結ばれた像をぼかすローパスフィルターが使われています。つまり一般的なデジタルカメラでは、イメージセンサーの原理的な部分で解像感を損している形になっています。
モアレはイメージセンサーのカラーフィルターの並びの規則性が低いと発生しにくくなりますので、その部分を工夫することで、ローパスフィルターなしでもモアレが発生しくい工夫を行なった、富士フイルムのX-Trans CMOSセンサーもあります。
またイメージセンサーのチップ内に光が浸透する深さの違いを利用することで、光を感じる層をRGBに対応する3層構造とすることで、画素すべてにRGBの情報を持てるようにして、原理的に偽色やモアレの発生をなくしたシグマのFOVEONセンサーもあります。
デジタルビデオカメラなどでは、光をRGBに分光できるプリズムを使って、RGBそれぞれに専用の合計3枚のセンサーを用意することで、FOVEONセンサーのように全画素にRGBの情報を持たせられるようにしたカメラも存在します。
フィルム
フィルムも人間の網膜に相当する部分になります。
フィルムの構造はFOVEONセンサーに近い構造になっています(正確には、FOVEONがフィルムの構造をまねた、です)。RGBそれぞれに反応する3つの感光層を持っていて、ほぼ、全画素でRGBの情報を併せ持つ形になります。「ほぼ」と書いたのは、フィルムではイメージセンサーのように規則的に画素が並んではいないからです。
フィルムの画素一粒に相当する「粒子」はイメージセンサーのように規則的な配列をしていないため、モアレ等の現象が発生することはありません。
輪郭のはっきりしたオブジェクトなどの描写ではデジタルカメラの映像の方が尖鋭感の高い描写になることが多いですが、質感の表現や解像限界ギリギリの部分の描写の自然さでは、フィルムカメラにまだまだ分があります。
フィルムでは、光化学反応と呼ばれる化学変化で光の情報を蓄積します。情報の記録には主に銀の化合物が用いられます。銀の化合物が光を受けて光化学反応を起こし、「潜像」という形で当たった光の状態を記録します。
映像エンジン
映像エンジンは脳の視覚野で画像が再構成されるのと似た処理を行なうためのプロセッサです。イメージセンサーの画素1つ1つの信号の強度を写真の明るさと見なして、膨大なデータから画像を作り上げます。
イメージセンサーの節でも書いたとおり、イメージセンサーからやってくる信号は光の明るさの情報しかありません。これにイメージセンサーのカラーフィルターの配置パターンを適用して、赤、緑、青に割り当てられた画素ごとの情報として解釈し、赤、緑、青のいずれかの情報しか持たないそれぞれの画素に関して、周囲の画素から推測して不足している色情報を補完します。(FOVEONセンサーでは基本的に色情報の補完処理は不用でした。ですが最新のQuatroセンサーはちょっと複雑なことになっています)
この際に、出来るだけモアレや偽色を発生させないよう、かなり高度な処理が行なわれています。
また、イメージセンサーからの信号にはノイズも混じってきますので、それらの影響をカットするノイズリダクションの処理も行なわれます。こちらもやはり高度な処理を行なって、元々のイメージセンサーの信号を出来るだけ損なわないよう調整が行なわれています。
さらに、ホワイトバランスの調整、適度なレベルの輪郭の強調、コントラストの調整などなど、非常に多くの調整を行なって初めて画像が生成されます。
現像・定着・焼き付け
撮影後のフィルムをきちんと像が見える形に処理を行なうのが、現像・定着の処置です。この処理も化学反応を利用して行なわれます。
撮影の際に「感光」させたフィルムでも現像・定着を行なう前は、まだ光に対する反応を行なう能力があります。このため、これらの処理を行なう前にフィルムを光に晒してしまうと、たいていの場合は全画面、超露出オーバーの状態となってフィルムは真っ黒になり、そこから作るプリントはどう処理しても真っ白なものしか仕上がらなくなります。
現像・定着を行なうことで写真撮影の際に出来た潜像が固定され、フィルムは光を感じる能力を失います。また、この処置を行なって初めて写真が目に見える画像の形になります。
モノクロフィルム、ネガカラーフィルムでは、明暗/色合いが反転した状態で記録されますので、正しいイメージで結果を見るにはプリントを作る必要があります。この際、印画紙に画像を作り上げる処置が焼き付けと言われる操作です。
これに対してスライド用フィルム/ポジフィルムでは、現像・定着を行なった段階で、正しい色合いの画像がフィルム上に出来上がります。そこからさらにプリントを作ることも出来ますし、スライド映写機で拡大した映像をスクリーンに映すことも出来ます。
まとめ~フィルムカメラで写真が撮れる仕組み~
いかがだったでしょうか?
ここまでは、カメラが捉えた被写体が写真に写されるまでに行なわれる動作や働く部分などについて、各工程ごとに説明してきました。
見慣れない単語があったりしてなかなか体系的には分からないな…という方もいらっしゃるかもしれません。そこで、最後に今まで説明してきた各工程をもう少し噛み砕いて全体的な流れとしてまとめてみました。
まずはフィルムカメラから。
①まず、カメラの外からやってきた光はレンズを通過します。ここで被写体が「像」として結ばれます。
②そして、この通過する光の「量」を調節するのが、先に出てきた絞り。
③またその光を「蓄積する時間」を決定するのがシャッターなのです。
④次に、フィルムの銀塩部分にレンズからやってきた光が当たったところがそれに反応して化学変化します。強い光が当たったところは変化が進んで真っ白になり、光の当たらないところは黒いまま、というのがフィルム基本的な仕組み。だから、最初の写真は白黒写真なんですね。
③そして、この通過する光の「量」を調節するのが、先に出てきた絞り。
④またその光を「蓄積する時間」を決定するのがシャッターなのです。
⑤こうしてカメラの内部でフィルムに記録された写真に、「現像」「定着」「焼付け」の処理がなされ、フィルムカメラによって撮影された写真が出来上がります。
まとめ~デジカメで写真が撮れる仕組み~
次にデジカメでの写真撮影の工程をまとめてみましょう。
①~③デジカメも、「被写体から飛んでくる光がレンズを通って集められる」点については同じ仕組みです。絞りとシャッターに関しても、フィルムカメラとほとんど同じ役割を担います。
④レンズから結ばれた像を受け止めるのが、フィルムのかわりになる部分。これが「イメージセンサー」で、撮像素子CCDやCMOS等と呼ばれています。このイメージセンサーの大きさと細かさで、どれくらいキレイな写真が撮れるかが決まるといっても過言ではありません。
デジカメ選びの際に多くの方が気にする「画素数」とはこのCCDの大きさ、細かさを表したものになります。また、同じ画素数でもCCD自体が大きければ、全体で当たる光が多くなるため、よりしっかりと色を捉えることができ鮮明な写真を撮ることができます。
この点がフィルムカメラとデジカメの最も大きな違いです。
⑤次に、イメージセンサーに写った光をデジタルデータ(光の強さの値)に変換します。このイメージセンサーが変換したデータは光の強さの情報なので、そのままでは映像として見ることができません。そのため、「映像エンジン」がRAWデータを映像化して、JPEGなどの画像ファイルに変換する必要があります。
この変換作業を、銀塩フィルムの現像工程になぞらえて、RAW現像処理と呼んでいます。銀塩フィルムの場合、捉えた光の量を映像化するために、薬品による現像処理が行われますが、デジカメの場合は、デジタル的にこの現像処理を行うことになるわけです。
そしてRAW現像後の画質はこの現像エンジンに大きく左右されます。
ちなみに一部の高級コンパクト機や、ほとんどの一眼レフタイプのデジカメではJPEG等に変換する前のRAWデータをそのまま保存する機能を持っており、別途RAW現像ソフトを使用すれば、ユーザーの好みを生かした現像を行う事が可能です。
フィルムとデジタルどちらがキレイな写真を撮れる?
これはフィルム派とデジタル派の間の永久の課題かもしれませんね。
単刀直入に言えば、この議論には答えは出ないと私は考えています。
一般的な初級~中級機デジカメの写真の美しさは、光を感じる点=画素の数で決まりますが、フィルムの写真はこれらのデジカメに近いおよそ2000万画素にあたるほどの美しさだと言われています。また、フィルムユーザーの中には極端に言えば「0」と「1」でデータで写真を撮影するデジカメよりも無限のつながりがあるフィルムのほうが滑らかかつ豊かな発色の写真が撮れると信じるユーザーも少なくありません。
一方で、実際4×5フィルムで撮影した写真をドラムスキャン(イメージスキャナの一種である読み取る対象となる原稿を、ドラムと呼ばれる透明な円筒に巻きつけて順次回転させ、固定されている読み取り装置によって走査を行っていく方式のドラムスキャナで読み取りデジタル化すること)したものと中判デジタルの画像を比べた場合、解像感は明らかにデジタルのが上、という結果もあります。
これはいかに高性能なドラムスキャナといえども間にかましてデジタルデータにする訳ですから当然かもしれません。
また、写真を撮る上で必ず必要になるランニングコストはフィルム代、現像代が掛からない、すなわち美しい写真が撮れるまで何度も取り直しが可能なデジタルが有利になってくるでしょうし、感度設定もフィルムではもう一台カメラを用意したり、フィルムを入れ替える必要があります。
このように、撮れる写真の出来栄えはメーカーやカメラ・レンズ、フィルムの種類によっても千差万別で、どれが一番優れているということは一概には言えません。これはデジタルであっても同じことが言えるでしょう。
たとえば、芸術の分野での写真を撮る場合、表現者が自分が表現したい画像がフィルムでしか表現できないものなのるものあれば迷わずはフィルムを選択するでしょう。
逆に新聞記者やスポーツカメラマンの方など、即時性や編集対応力等が求められる場合の写真にはデジタルのほうが適しているともいえます。
つまり、撮り手がどのような写真を撮りたいのか、またどのような仕上がりをもって「美しい」と判断するのかによって、デジタルとフィルムのどちらが適しているかはその都度変わってきます。
「フィルムとデジタルどちらがキレイな写真を撮れるか」という命題は、一昔前に聞かれた「レコードとCDどちらが良い音か?」という議論と似ていますね。
フィルムで撮る写真にはフィルムの良さが、デジタルで撮った写真にはデジタルの良さがそれぞれある、というのが答えであり、フィルム機であってもデジタル機であってもそのカメラやレンズの性能を十二分に生かせる写真を撮れる腕前を磨くことが我々カメラ愛好家の最も重要な命題なのではないでしょうか。