「最新のカメラが、最も良いカメラである」
その定説が、最近の自分の中では少しずつ揺らぎ始めています。解像度やダイナミックレンジといった数字の呪縛から解き放たれたとき、写真はもっと自由になれるのではないか。そんな予感を胸に、私は一台の古いコンデジをポケットに忍ばせました。
2009年生まれの銘機、Canon IXY DIGITAL 510 IS です。

道具としての「心地よさ」
このカメラを手にしてまず驚くのは、その「佇まい」です。キヤノンが磨き上げてきた曲線美。流れるようなフォルムのアルミ合金の外装は、冷たくもあり、どこか手のひらに馴染む温もりも持っています。
スイッチを入れた瞬間の、少し控えめなレンズの駆動音。それは「さあ、撮ろう」という合図。スマホの画面をタップするのとは違う、明確な「撮影という行為」の始まりを告げてくれます。
澄み渡る「IXYブルー」の記憶
まずは高い場所から、新宿の街を見下ろしてみました。

液晶越しに見る世界は、肉眼よりも少しだけ「記憶」に近い色がします。1210万画素のCCDセンサーが描き出す空の青。それは「IXYブルー」とも呼びたくなる、どこまでも深く、それでいてどこかノスタルジックな青です。現代のカメラならもっとシャドウを持ち上げてしまうかもしれませんが、このカメラは「影は影として」潔く残してくれる。そのコントラストが、都市の立体感を際立たせています。
季節の隙間、光を掬い取る
地上に降り、大きな樹々が並ぶ公園を歩いてみました。

見上げれば、無機質なコンクリートの壁と、春の終わりの桜。このカメラが持つワイドな視界は、街の窮屈さを感じさせず、ダイナミックに景色を切り取ってくれます。驚いたのは、桜の花びら一枚一枚の質感。解像感というよりは「存在感」に近い描写です。

芝生の上で思い思いの時間を過ごす人々。逆光気味の強い光が木々の間から漏れる、そんな難しいシチュエーションでも、510 ISは「その場の温度」をそのまま掬い取ってくれました。高性能なレンズではありませんが、この「ゆるさ」こそが、日常を作品に変えてくれるスパイスなのかもしれません。
視線は足元へ
散歩の終盤、ふと足元に目を向けると、鮮やかな花壇が広がっていました。

CCDセンサー特有の発色の良さが、黄色やピンクの花々を鮮烈に、かつ品よく再現してくれます。画面の隅に、たまたま居合わせた誰かの足元が少し写り込んでしまったけれど、それすらも、この穏やかな時間を共有していた証のようで、愛おしい記録に思えるのです。
なぜ今、IXY 510 IS なのか
このカメラで撮っていると、不思議と「失敗」という言葉を忘れてしまいます。 ピントが少し甘くても、ハイライトが飛んでしまっても、それがその瞬間の「真実」であるように感じさせてくれる。それは、このカメラが持つ「ほどよい不完全さ」が、私たちの曖昧な記憶のカタチに寄り添ってくれるからかもしれません。
便利すぎる現代において、あえて不自由を楽しむ。 IXY DIGITAL 510 ISは、ただの「古いデジカメ」ではありません。あなたの日常を、ちょっとだけドラマチックに、そして主観的に描き出すための「魔法の眼鏡」なのです。
今度の休日、皆さんも古いIXYを連れて、自分だけの「私的な視線」を探しに行きませんか?
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