新宿の街を歩いていると、普段は何気なく通り過ぎてしまう景色にも、思わずカメラを向けたくなる瞬間があります。
ショーウィンドウに並ぶ洋服、建物を彩る光と影、行き交う人々、そして空に伸びるクレーン。
そんな日常の風景を、印象的な一枚に変えてくれるのが、今回ご紹介する「Canon New FD 85mm f/1.2 L」です。
1980年に発売されたキヤノンの大口径中望遠レンズ。85mmという焦点距離と、開放F1.2の明るさを持ち、背景を大きくぼかした表現を楽しめる一本です。
今回は、新宿の街で撮影した6枚の作例とともに、このレンズが持つ魅力や、85mmで街を切り取る楽しさをご紹介します。
1980年に誕生した、キヤノンの大口径Lレンズ

Canon New FD 85mm f/1.2 Lは、1980年3月に発売されたFDマウントのマニュアルフォーカスレンズです。
キヤノンの高性能レンズを象徴する「L」の名を冠し、開放F1.2という非常に明るい設計を採用しています。
キヤノンは1976年に「FD85mm F1.2 S.S.C. ASPHERICAL」を発売しており、New FD 85mm F1.2 Lも、その大口径85mmレンズの歴史を受け継ぐモデルです。
レンズ構成は6群8枚。非球面レンズを取り入れた光学設計が特徴で、大きなボケを楽しみながら、ピントを合わせた被写体の存在感を引き出す撮影ができます。
また、レンズの質量は680g。決して軽量なレンズではありませんが、大きな前玉や、手で操作するフォーカスリングなど、現代のオートフォーカスレンズとは異なる道具としての魅力も感じられます。
85mmという焦点距離が変える、街の見え方
85mmは、人物撮影でよく使われる中望遠の焦点距離です。
50mmの標準レンズと比べると写る範囲が狭くなり、少し離れた場所にある被写体を大きく切り取ることができます。
街全体を広く写すのではなく、気になった人物や建物の一部分、光が当たる場所など、ひとつの被写体に目を向ける撮影に向いています。
そして、このレンズの大きな特徴がF1.2の明るさです。
絞りを大きく開けば被写界深度が浅くなり、ピントを合わせた部分の前後を大きくぼかすことができます。
背景が複雑な街中でも、見せたい被写体を際立たせる表現が可能です。
作例①|ショーウィンドウに並ぶ洋服と、街に差し込む光

最初の一枚は、ショーウィンドウに並ぶ白いコートとピンク色のコートを撮影した写真です。
店内の暖かな照明に照らされた洋服と、ガラスに映り込む街の景色。
白とピンクの色彩が印象的で、落ち着いた雰囲気の中にも華やかさを感じます。
さらに目を向けたいのが、画面手前の歩道です。
地面に落ちる柔らかな光と、ショーウィンドウの明るさが重なり、一枚の写真の中に異なる表情が生まれています。
普段なら何気なく通り過ぎてしまうお店の前も、85mmで一部分を切り取ると、街の小さな物語のように見えてきます。
作例②|建築物の直線と、街の光と影

新宿の高層ビルを見上げて撮影した一枚。
規則正しく並ぶ窓と、赤茶色の外壁が画面いっぱいに広がっています。
建物の直線的な構造と、壁面を横切る大きな影。
明るい部分では外壁の色が鮮やかに見え、影の中では青みを帯びた窓が印象的です。
大きなボケを活かした写真とは異なり、建物の形や繰り返される模様を楽しめる作例になっています。
85mmレンズはポートレートの印象が強いかもしれませんが、こうした建築物の撮影でも魅力を発揮します。
遠くから建物の一部分を切り取ることで、普段見慣れている街並みの中に、新しい構図を見つけることができます。
作例③|都会の中で見つけた、小さな被写体

高層ビルが立ち並ぶ新宿の街。
その手前にある案内板の上に、一羽の鳥がとまっています。
画面の大部分を占めるのは、規則的に窓が並ぶ大きな建物。
その中に小さく写る鳥の姿が、写真のアクセントになっています。
85mmの画角は、こうした少し離れた場所にある被写体を探すのにも便利です。
鳥だけを大きく写すのではなく、周囲の建築物と組み合わせることで、都会ならではの風景が生まれています。
作例④|行き交う人々を切り取る、ストリートスナップ

新宿の歩道で撮影した、日常の一場面です。
ピンク色の上着を着た人物、緑色のコートを着た人物、そして道路を走る車やバス。
さまざまな色や動きが、ひとつの画面の中に収まっています。
人物がいる手前の空間と、奥に広がる交通量の多い道路。
背景の車両が柔らかくぼけていることで、手前の人物たちの存在が自然と際立っています。
また、画面中央にある大きな柱が、構図に変化を与えているのも印象的です。
街中の人物を撮影する場合、必ずしも大きく顔を写す必要はありません。
人々の立ち姿や服装、周囲との距離感だけでも、その街らしい空気を写真に残すことができます。
作例⑤|空に伸びるクレーンと、余白の美しさ

こちらは、空に向かって伸びる2基のクレーンを撮影した写真です。
赤と白の鉄骨が、淡い色の空を背景に浮かび上がっています。
画面の大部分を空が占める、とてもシンプルな構図です。
左側の大きなクレーンと、右側に少し離れて立つクレーン。
その大きさや高さの違いが、写真に自然なリズムを生み出しています。
街を歩いていると、つい建物や人々に目を向けてしまいますが、少し視線を上げるだけで、まったく違う景色に出会うことがあります。
被写体を大胆に切り取り、余白を活かして構成する。
そんな撮影も、85mmレンズで楽しめる表現のひとつです。
作例⑥|落ち着いた光で描く、人物撮影のような一枚

最後は、ショーウィンドウに飾られたスーツ姿のマネキンです。
黒いジャケット、白いシャツ、深い赤色のベスト。
落ち着いた色の組み合わせと、柔らかな光が印象的な写真です。
白い顔の部分には穏やかな明暗が生まれ、黒いジャケットには深い影が残されています。
人物撮影では、顔や衣服に当たる光によって、写真全体の雰囲気が大きく変わります。
この作例も、実際の人物ではありませんが、ポートレートを撮影しているような感覚で楽しめる一枚です。
背景を整理しながら被写体を際立たせる。85mmという焦点距離の魅力を感じられる写真になっています。
Canon New FD 85mm f/1.2 Lで楽しむ、オールドレンズの世界
今回の6枚の作例を見ていると、Canon New FD 85mm f/1.2 Lの魅力は、背景の大きなボケだけではないことに気づきます。
ショーウィンドウ、人物、建築物まで。
85mmという焦点距離を通して見ることで、いつもの街が少し違って見えてきます。
一方で、開放F1.2ではピントの合う範囲が非常に浅くなるため、ピント合わせには慎重さも必要です。
マニュアルフォーカスのレンズなので、撮影者自身がフォーカスリングを操作し、ピントを合わせることになります。
現代のオートフォーカスレンズと比べると、撮影に時間がかかる場面もあるかもしれません。
それでも、自分でピントを合わせ、光の向きや背景を考えながらシャッターを切る時間には、オールドレンズならではの楽しさがあります。
また、FDマウントに対応したフィルム一眼レフだけでなく、対応するマウントアダプターを使用することで、一部のミラーレスカメラでも撮影を楽しめます。
昔のレンズを現代のカメラと組み合わせ、新しい表現を探すことができるのも魅力です。
今回使用したレンズ
Canon New FD 85mm f/1.2 Lについて
1980年に登場した、キヤノンFDマウントの大口径中望遠レンズ。85mmの焦点距離と開放F1.2の明るさを備え、背景を大きくぼかした表現が楽しめるマニュアルフォーカスレンズです。
- 発売年:1980年(3月発売)
- 形式:大口径中望遠・単焦点レンズ
- マウント:Canon FDマウント
- 焦点距離:85mm
- 開放F値:F1.2
- 最小絞り:F16
- レンズ構成:6群8枚
- 絞り羽根:8枚
- 最短撮影距離:0.9m
- フィルター径:72mm
- 質量:680g
まとめ|何気ない日常を、印象的な一枚に
Canon New FD 85mm f/1.2 Lは、1980年に発売されたレンズでありながら、今でもさまざまな撮影表現を楽しめる一本です。
ショーウィンドウの写真も、建物の形を切り取った写真も、街を行き交う人々の写真も。
同じ85mmレンズで撮影していても、被写体や光の選び方によって、まったく異なる雰囲気の写真に仕上がります。
何気ない景色の中から、自分だけの一枚を見つける。
そんな街歩きの楽しさを、改めて感じさせてくれるレンズです。
ファイブスターカメラでは、Canonをはじめ、さまざまなメーカーの中古カメラやオールドレンズを取り扱っています。
新宿店・富山店では実際に商品をご覧いただくこともできますので、気になる機材がございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
中古カメラ・レンズの販売だけでなく、買取も行っております。
お気に入りの一本と、新しい写真の楽しさを見つけてみませんか。

